朝日新聞
ポリティカにっぽん 堂本氏が見た族議員の世界
1997年4月
朝日新聞編集委員 早野透


最近の「自社さ」の与党党首会談といえば、橋本龍太郎首相の両側を土井たか子社民党党首と堂本暁子新党さきがけ座長の二女性が固めるという図柄になる。

きしみがみえる「自社」の間で、「さ」はどうしているのだろう。その堂本さん、国連環境計画(UNEP)から地球環境のために活動貢献した世界の女性25人のひとりに選ばれ、4月9日、それを祝う会でさきがけ前代表武村正義氏は、こう紹介した。

「我々の座長であるだけではない、さきがけは衆参議員わずか五人だから一人が何役も務め、堂本さんは自民党の族議員体質と戦っているところでもあります」堂本さんは与党医療保険制度改革協議会のメンバーである。

今度の健康保険法改正案のように、保険財政が火の車だからといって、ただ患者負担を増やすだけでは困る、27兆円にも達し毎年1兆円も増え続ける医療費にはむしろ無駄がいっぱいあるのではないか、と抜本改革を考えるためにつくられたのが、この協議会である。

自民は4人、社民は2人、さきがけは堂本さん1人である。昨年12月に発足、以来23回の協議のなかで、堂本さんが見たものは、抜本改革案のペーパーの文言にいちいち介入する日本医師会の強さ、想像に絶する自民党の族議員体質だった。

◎「定額払い」に傾く

例えは、さきがけ案の「過剰な医療費の削減を図る」などはそもそも「過剰」という表現がまずい、社民案の「患者の立場に立って保険者の機能を強化する」のは、健保組合が医療の中身をチェックするなどもってのほかということであろう。自民党は受け入れなかった。

病院のもうけとなる、いわゆる薬価差益は、高価で値引きの大きい薬を使えば使うほど、病院は潤い、逆に保険財政は苦しくなる。これを改める「参照価格制」の導入も、医師会や製薬業界の反対で記すことはできなかった。クライマックスは4月2日深夜から明け方までもめた、医師の診療報酬は「出来高払い」か「定額払い」か、という争点だった。

現行の「出来高払い」は、診療にいくら費用をかけても保険から支払われる。1ヵ月に24回のレントゲン検査を受けたり、1人の心臓病患者に1ヵ月2,000万円の治僚(698人分の保険料!)を施し、結局死亡したり、健康保険組合連合会で調べた例を20日のNHK番組もくわしく紹介していた。

「定額払い」ならば、胆石症なら幾ら、虫垂炎なら幾らと標準的な費用が定められ、病院に支払われる。医師はこの範囲で効率的な治療を施せば、そのぶん潤い、医療費全体もむやみと膨らむことはない。堂本さんらの要求を自民党も認め、「定額払いの適用範囲拡大」を盛り込むことにいったんは傾いた。

◎医師会拒否で決裂

ところが夜中の3時、自民党の医師会寄り譲員がそこに了承を頼むと、電話の先であっさり拒否され、徹夜の協議も決裂するほかなかった。結局、三党の政調・政審会長会議に上げられ、「定額払いが有効に機能する領域で積極的に活用」という、いささか微温的な表現で収拾した。

自民党ではあっても、何とか財政改革の視点を盛り込もうと苦心した協議会座長の丹羽雄哉氏の周辺には、「小選挙区になったから、医師会に反対する自民党議員みんな落とせる」といった話が伝わってくる。「右手に聴診器、左手に票」なのである。

「だから連立はおもしろいのよ。私たちが主張すれば、少しはいい方向に向わせられる」と堂本さん。確かに今度の健保法改正、「社さ」がいなければ、患者の負担増だけで制度論議もなく突っ走っていたかもしれない。武村氏はいう。「改革も総論から各論に移れば、族議員が暴れ出す。関係団体が一言一句に口を出す。医療はその見本だ。

わが国のシステムは自民党がつくりあげてきた。それを壊して、作りかえることが本当に自民党にできるだろうか」利権体質への決別を初心としていたさきがけも住専問題などで傷ついている。与党の一角にあって志を貫いてほしいが、ただ、いかんせん、数が足りない。