山(Yama)
「環境に貢献した世界の女性リーダー25人」に選ばれて
1997年6月
堂本暁子


ナイロビのUNEP(国連環境計画)から「あなたは25人の1人に選ばれました」と連絡を受けた時には、何に選ばれたのかさっぱり見当がつかなかった。

何度かファクスをやり取りしているうちにわかったのは、今年はUNEPの創立25周年にあたること、そしてそれを記念して「環境に貢献した世界の女性リーダー25人」を選び、3月6日にニューヨークの国連本部で表彰式を行う、ということであった。

私はびっくりして、どんなメンバーなのかを問い合わせたところ、ノルウェー元首相のグロ・ハーレム・ブルントラントや歌手で環境保護活動家として知られるオーストラリアのオリビア・ニュートンジョン、国連人口基金事務局長のパキスタンのナフィス・サディック、ザ・ボディショップの創設者として知られるイギリスのアニータ・ロディックなど、そうそうたる顔ぶれである。

顔なじみのアメリカのベラ・アブザック、インドのバンダナ・シヴァの名前もあった。彼女たちは地球サミットに向けて精力的に活動を続けてきた人たちである。私は1990年にGLOBE(地球環境国際議員連盟)に入ったのがきっかけで、地球環境問題に取り組んできたが、主として生物多様性がテーマであった。

若い頃に登った南アルプスの稜線には、コマクサが咲き乱れていたし、冬の立山では頭の赤が目立つライチョウをよく見かけたものである。しかし、わずか数十年の間にコマクサもライチョウも絶滅の危機に瀕するようになった。

東北の連峰は、飛行機から見ると、まるで稜線をえぐったように林道が走り、オオタカやイヌワシたちの営巣地が次からつぎへと破壊されている。

しかも、温暖化が進めばこうした動物や植物は生息環境の変化で、絶滅が加速されかねない。いまや、日本の野生植物の6種に1種は絶滅の方向へ向かっている。これでは、四季の変化に富んだ日本の自然の貧困化がじわじわと進んでいく。

こうした実態を知って、私は無我夢中で走り出していた。日本の山だけではない。南米の熱帯林も、ヒマラヤのシャクナゲも、ヨーロッパアルプスの森も、危機にさらされている。自然を守り、生態系を保全するために生物多様性条約を実効あるものにしたい、というのが私のこの6年間の願いであり、仕事であった。

「環境の保全といえば男も女もないだろう」と言われるが、自由市場経済に正面から勇気を持って立ち向かっているのは意外に女性たちなのだ、と気付かされた。カナリアが炭坑で毒素のインディケーターであるように、女性たちも意識的にせよ無意識的にせよ、時代の変化を感じとり、思想の変革を行い、また行動に移してきた。

経済中心主義から「持続可能な開発」という価値観の転換を実現したのが、当時ノルウェーの首相ながら世界環境会議の議長を務めたブルントラントである。

彼女がまとめた「我ら共通の未来」は、最も迫力のある、そして21世紀への方向性をしっかりと指し示した報告書だ。その中で彼女は「私は最終的に、未来を直視し、次の世代の利益を守るという挑戦を受けて立つことにしました。変革のために我々は何をすべきかをはっきりさせる必要があることが余りに明白であったからです」と述べている。

世代間の平等、大量消費型社会から循環型社会への転換を主張し、世界のリーダーを説得する迫力を、彼女は持っていた。

元アメリカの下院議員だったベラ・アブザックは、世界の女性たちのネットワークをつくり、地球サミットをはじめ、国連の地球規模問題に多大の影響を与えた。大変な大物おばさんである。カナダのセオ・コルバーンは、化学物質が生物の生殖機能に影響を与えることを立証した。鳥や魚だけではない、人間とて例外ではないのだ。

彼女は著書の『われらの奪われた未来』で人類と自然環境の在り方について警鐘を鳴らした。90年代のレイチェル・カーソン(『沈黙の春』の著者)と呼ばれる所以である。

一方、途上国の立場から植物や動物の多様性を失うことの恐ろしさを告発し続けたのがバンダナ・シヴァである。生物の多様性を失うことは文化の多様性をも失う、と彼女は主張する。ケニアのワンガリ・マタイも、これまた芯の強さは人後に落ちない。何回投獄されても、大統領からの弾圧を受けても、樹を植える運動をやめはしない。

私自身は、生物多様性というテーマに出会ったおかげで地球という惑星の魅力、そこに誕生した生態系の神秘をかいま見る機会を与えられた。数多くの動物や植物と出会い、地球環境を守ることに使命感を抱いている女性たちとも出会った。

3月6目にニューヨークの国連本部に集まった女性たちは、誰一人として気負った人はいなかった。みんな自然体である。たちまち、仲良くなって、25人のネットワークを世界中の女性だけではなく、男性にも、そして若者にも高齢者にも広げていこう。

動物や植物などあらゆる生物と人類が共生していくことで地球は守れるし、平和な世界を実現できる、と語り合い、また世界の各地に散っていった。