女の新聞
児童買春・ポルノを処罰政党インタビュー
子どもの権利を守る法案 今国会に提出
1998年5月


海外の日本人犯罪も処罰

世界人権宣言から50年の今年、子どもの人権を尊重する視点から、子どもを対象にした買春や子どもを被写体にしたポルノ、人身売買などを禁止する「児童買春、児事ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律案」が、ようやく今国会に提出された。

同法律案は、自民、社民、さきがけの与党三党による議員立法で、「子どもの人権条約」の観点から児童買春や児童ポルノを対象にしたわが国初の法制である。1日も早い成立を求め声をあげよう。

94年に日本が批准した「子どもの権利に関する条約」第34条では「締約国は、あらゆる形態の性的搾取及び性的虐待から児童を保護すること」を約束。その中で国内法の整備や多国間での措置の必要に触れている。

95年の「世界女性会議」でも少女に対する暴力がとりあげられた。96年8月にスウェーデンで開かれた「子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」では、アジア諸国での日本人の子ども買春や日本国内で大量に作られる子どもポルノが問題となった。

この会議に出席した清水澄子議員は、帰国後与党内に法案作成のプロジェクトチームを設けることを呼ぴかけ、昨年6月から20数回の会合を開いて、議論を重ねてきた。中心になったのは女性議員たちで、自民党の森山(座長)、野田、社民党の清水、辻元、さきがけの堂本さんらの各議員たち。法案要綱の主な内容は別表のとおり。

「児童買春」とは「対償を供与し、またはその供与の約束をして、その子どもに対し性交等(性交もしくは性交類似行為をし、または自己の性的好奇心を満たす目的で、性器、肛門、乳首に接触すること)をいう」と定義。「目的」について、初期の段階で法制局が条文化してきたものは「青少年の健全育成」だった。

「児童買春」についても「淫行またはわいせつな行為」と定義。それに女性議員たちは猛反対して訂正させた。「これこそ議員立法の強みだ」と中心的に係ってきた清水議員は強調する。

「児童ポルノ」については「写真、絵、ビデオテープその他で、性交に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したもの」と明確に定義した。「法制局は法律にカタカナはふさわしくないと『性的図画』を使うよう指摘したけれど、頑張って『児童ポルノ』を入れさせた」と清水議員。

児童ポルノの領布、販売、貸与またこれらの目的で製造、所持、運搬輸入、輸出は処罰の対象に。単純所持は処罰でなく禁止に。

この規定によって、野放し状態のピンクチラシ等も処罰の対象になる。日本人の国外犯罪も処罰される。人権侵害にあった子どもを精神的、肉体的に回復させるための保護を適切に行なう体制の整備も明記された。また、捜査や公判における人権への配慮、職務上関係のある者への権利に関する教育、啓発についても規定。

マスコミに対しては、人権の立場から、児童買春、児童ポルノ、児童の人身売買の捜査段階で、関係した児童について、氏名、年齢、職業、住居、容ぼうその他、事件に関係ある児童であることが推知されるような記事を新聞その他の出版物に掲載したり、放送することを禁止している。

さらに、国や地方公共団体に対して、児童買春、児童ポルノを頒布することは、児童の心身の成長に重大な影響を与えるという観点から、児童の権利に関する国民の理解や意識を高めるために、教育や啓発を徹底するよう規定している。

また、6ヵ月以内に被害者が訴える親告罪では、外国の子どもたちが被害を訴えるのは困難であり、悩んでいる間に期限が過ぎてしまうということから非親告罪にした。

ところが、非親告罪だと警察が児童の意思に関係なく捜査できるので、警察権介入の恐れがある。この歯止めとして、捜査、公判などの職務にある人への人権教育の徹底を規定している。

清水議員は「この歯止めは、これからつくろうとしている性暴力禁止法に必ず生きてくる」と。捜査のための国際協力もうたわれ、3年後の見直し規定も。「国際協力については、国外犯を処罰する場合、相手国と協定や条約を結ばなければならない。

そのためには、国際的な連けいが必要。また、相手国の警察官や裁判官と一緒に捜査や研修もしなければならないでしょう」。今後はこの法案にのっとって、子どもの人権の視点から、各自治体の青少年育成条例を見直す運動が必要だ。

法案提出に「ストップ子ども買春の会」の宮本潤子さんは、「野放し状態だった子ども・少女の買春やポルノを禁止する法案を目にしたとき嬉しくて涙が出た。売春防止法には買う側の処罰はないが、今回の法案には、買春は人権侵害であることと子どもの権利擁護が明記されていることを評価したい。

今後国会論議の中で、より具体的な実態を担保した法律にしていただきたい」と要望している。児童買春、児童ポルノ等禁止法案要綱の主な内客≪目的≫児童買春、児童ポルノに係る行為等を罰するとともに、児童の保護のための措置などを定め、児童の心身の健やかな成長を期し、あわせて児童の権利の擁護に資することを目的とする。

≪定義≫
児童18歳末満児童買春児童に、性交または性交類似行為をし、性器、こう門、乳首に接触すること児童ポルノ写真、ビデオテープなどで、次のいずれかにあたるもの
・性交などの姿態
・性的好奇心をそそる脱いだ姿態
・性器やこう門が認識できるもの(学術研究用を除く)

≪児童買春等の罪≫
・18歳末満の子ども買春は5年以下の懲役または100万円以下の罰金
・あっせんは3年以下の懲役または300万円以下の罰金
・業としてのあっせんは5年以下の懲役及び500万円以下の罰金

≪児童ポルノに係る行為の罪≫
児童ポルノの頒布、業としての貸与、公然陳列、製造、輸出入などは3年以下の懲役または300万円以下の罰金

≪人身売買等の罪≫
児童買春の目的や児童ポルノを製造する目的とした児童の売買や移送は2年以上の懲役

≪児童ポルノの所持の禁止≫
自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持してはならない

≪捜査と公判での配慮≫
捜査と公判に職務上関係する人は、児童の人権と特性に配慮し、名誉と尊厳を害しないように注意しなければならない

≪保護≫
買春相手やポルノ描写の被害者に対し相談、指導、一時保護、施設への入所