げきじょう
リレー国会議員奮闘記 子どもの「性の権利」とは
1998年7月
インタビュー・福田房枝/まとめ文・木村高志


堂本暁子 どうもと・あきこ〔参議院議員〕
1932年生れ、東京都出身。
TBS記者・ディレクターとして取材・制作に携わる。現在与党の児童買春問題、少子化問題、NPO税制等検討の各プロジェクトチームの新党さきがけ座長。97年UNEP(国連環境計画)の「環境に貢献した25人の女性リーダー」に選ばれる。

著書:「生物多様性〜豊かな生命を育むもの〜」(岩波書店)他児童買春(かいしゅん)や子どもを被写体にしたポルノ製造などを処罰する『児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律案』という長い名前の法案が4月末、与党3党(当時)の間でまとめられた。議員立法で早期の成立を目指す。

この法案づくりは、日本人による海外での買春行為に対する国際的な非難の高まりからスタートした。しかし国内の子どもの性も対象とされるものだけに、「社会秩序の維持という社会的法益ではなく、子どもの人権、性的自己決定権の擁護という個人的法益の観点から立法する」ことを心がけてきたという。

子どもの性の権利を保護し加害者である大人を罰することが法案の目的のようだが、立法化に向けて力を注いできた当事者はどんな思いを込めたのだろうか……そこで、咋年6月から25回の協議を重ねてきた「与党児童買春問題等プロジェクトチーム」のメンバーの一人であった、堂本暁子参議院議員に話をうかがうことにした。(インタビュー5月1日)

……マンガなどにおける表現の自由が冒されるのではないかなど問題点もいくつか指摘されていますが、まず最初に、この法案の中身を簡単に教えてください。

この法律案は刑法の特別法に属するもので、5月23日に衆議院に提出されました。

「こういうことをやると、あなたは国のルール違反で罰せられますよ」というのが刑法ですから、児童福祉法などとは違って、ある意味ではたいへん厳しい内容の法律なんです。

内容は、3つのことが柱になっています。1つは、18歳未満の児童をお金や物の対価を出して買う行為の禁止。

2つ目は、その年代の子どもたちが被写体となっているポルノを頒布・販売・レンタル、もしくは公然と陳列すること、またこれらの目的で児童ポルノを製造、所持、運搬、輸出入することの禁止。

もう1つは、児童の人身売買の禁止。日本から外国に売られる場合はこれまでも禁じられています。ところが日本の法律は不十分で、逆に外国から日本に売られるケースは今まで禁止されていなかった。それを禁止する法律です。

また、法制局は法律にカタカナは適さないと、ポルノではなく「性的図画」を主張してきましたが、私たちは一般的に通用する「児童ポルノ」を主張し、使用しました。

児童買春についても、「性交または性交類似行為をし、性器、肛門、乳首に接触すること」と具体的に定義。自治体の条例で問題となっている「淫行」「わいせつ」という曖味な文言は、警察の不当な取り締まりが行われる恐れがあるし、さらに被害を受けた子どもにも、悪いことをしたような印象を与えかねない表現なので使いませんでした。

そのため犯罪の定義が明確で、子どもたちにもわかる簡潔な文言を用いたこともこの法案の特徴です。

……この法律が必要だと思った理由は何ですか?

私は15年ぐらい前に、フィリビンやタイの子どもたちを大人が買う現場を歩きました。それらの国では身体を売れば、12人の家族が1ヵ月間食べられる。だからお兄さんやお母さん自らが、子どもを買う大人を連れてくる。

だけど、買われる子どもはそんなことをやりたくないに決まってるわけです。そういった大人社会の北と南の構造のなかで、子どもたちが性的に搾取され、虐待されていました。

私自身が、日本人が子どもたちを買っているのだとはっきり認識したのは、私が日本人だとわかると、子どもたちが「綺麗だね」「愛してるよ」という言葉をぶつけてきたときです。その言葉をどういうところで覚えたのか、容易に想像がつきました。

スカンジナビアの国やアメリカでは、実態に対応して、子どもを買うことを禁止する法律がいちはやくつくられてきました。宗教や文化などの背景があるのかもしれませんが、いずれにしても日本にはそういう内容の法律がなかった。それが国際的な非難を浴ぴた。

このことが、法律が必要だと痛感した大きな埋由の一つですね。……国内の子どもたちの性をめぐる状況については、法案を作成するにあたってどのように考えられましたか?国内的な問題としては、よく援助交際が俎上に上ります。

「孫ギャルは5万円、子ギャルは3万円で、中学生の方が高い」とか、そんなことが平気で話題になっている。中学生とその親に聞いたある調査では、40%ぐらいの子がテレクラの経験があると答えている。それが売春までつながったかどうかはわかりませんが、ほとんどの親はその実態を「知らない」と言っているんです。

福島のある女子高では、あるクラスの全員がテレクラの経験者だったという調査結果もあります。それはどういうことなのかを考えると、「みんな同じでありたい」という気持ちから「自分も経験しよう」と流されたのでないでしょうか。そしてまた、自分がポルノに撮られることも別に悪くないんだと言う子もいるそうです。

あくまで「子どもの権利条約」の立場にたって今度の法律をつくってきましたが、そこで問題になるのは「子どもの性的自己決定権」の問題なんですね。子どもが「いい」と言っているにもかかわらず、それを罪だというのはおかしいという考え方もできますが、私は年齢が問題だと思います。

ポルノを撮られて、それが何年後かにそこら中に出回った時に、自分がどれだけの精神的被害を受け、つらい思いをするかまで判断して、その子は撮影されるのかどうか。

「ここの部屋に入ったら10万円あげるよ」って言われて入ったら、「洋服脱がされてなんだか知らない間に撮られちゃった」っていうことだってあると思うんです。子どもの権利という立場にたった時、そういう「被害を受けない権利」も子どもの側にあるのではないか。

外国で製造が禁止されている子どもポルノを、日本で製造して他の国へ持っていくというようなことまでされている現状で、国際的にも国内的にも私たちはすごく悩みながらも、やはりこれはどこかで線を引く必要があるだろうと判断して法案を作成してきたわけです。

……被害を受けない権利と同時に、いま子どもたちから出ているのは、援助交際までいくかどうかは別としても、セックスをする権利を含めての「性的自己決定権」という面があると思いますが、堂本さんはどう考えますか?

買春、つまり子どもにお全や物を渡した場合だけ、買った大人が罰せられます。性行為が罰せられるわけではありません。次に必要なのは、子どもでもはっきり自分に責任を持ち、イエス・ノーを言うべきだと思うんです。

例えば、女性の場合だと妊娠の可能性がつきまといます。その前段として、性についてきちっと子どもたちに教育しておく必要がある。そのうえで子どもが判断することが大事だと思うんですね。

両親、それから地域、学校、国なりが、みんなそういう形で子どもに接するべきではないでしょうか。今回の法案はあくまでも刑法なので、罰則しかない。だから次に必要なのは、児童福祉法をいまお話ししたような視点を入れて改正すること。

もっと言えば、学校教育のなかに、倫埋や道徳の間題としてではなくて、男と女の人間としての本質的なあり方、つまり人としての尊厳まで深めた性教育が必要だと思いますね。