シンポジウム 精神保健福祉法改正と今後の課題
暮らしやすい地域での生活環境と働きやすい職場
1999年7月
堂本暁子(参議院議員)


皆さん、こんにちは。堂本暁子です。

まずは、毎日のお仕事をご苦労様と申し上げるというか、本当に大変だと思うんですけれども、日夜ご努力していらっしゃることに、敬意を表したいと思います。私は10年前の改正の時はTBSの記者でして、世界の精神病院という番組を作るため各国の精神病院を歩きました。

当時、私は10年たてば入院数は半分ぐらいになると思っていました。去年参議院の国民福祉委員会の委員になり、期せずして今回の改正に関与することになった次第です。

本来は朝日さんが見えられるはずだったのですが、私が代理で参りました。朝日さんとは10年前に一緒に改正の問題で日夜毎晩のように話した時期がありました。あれから10年、厚生省から見れば変わったなというところもあると思いますが、私は変わっていないなと実感しています。

今回初めて精神障害者居住生活支援事業等の政策が入ったとのご説明がありましたが、このようなことは本当は10年前からスタートしてよかったのではないかと思います。

今回の改正で感じた物足りなさについてレジュメにさせて頂きました。当時から言われていたことで、外国から見て日本に一番欠けていたのは、地域で自然に暮らせる状況をどう作っていくかということで、10年たった今も改善されていないのが実情です。

また、人権への配慮に欠けるのはこの国の一つの本質でさえあるような気がします。精神の方だけでなく、いろんな意味での差別が根強い国、日本。だからアメリカやヨーロッパから比べたら私は法的にもっと人権の擁護を打ち出さないと、差別は解消しないのではないかと思っています。

様々な審査会が設けられ、変わってはきましたが、まだ物足りない。どうしたら病院での人権の問題が担保されるのか、地域社会での人権の問題が担保されるのか。そして最終的には雇用の場で差別されないことが担保されるのかをずっと考えてきました。

私は無所属ですから所属する委員会では質疑がビリなんです。今回の改正については、雇用の問題、厚生省と労働省との協力の問題に焦点を絞り、国会の質疑をし、参議院の附帯決議にも雇用の確保を盛り込むように努力をしました。

結論として結局皆不満足だということになってしまうんですが。いろいろな方に聞いてみると、精神障害者地域生活支援センターも様々な活用方法があるということです。国や地域の制度を組み合わせると相当活用の余地があるとは思います。

グループホーム、ホームヘルパー、ショートステイが導入されたところまでは評価しますが、問題は絶対的な数が少ないことです。近くにそういう施設があって活用できる地域はいいと思いますが、北は北海道から沖縄まで、あらゆるところで実際に地域で住み易い状況があるかどうか。

あらゆるところでサービスがうけられるという担保がないという意味で未だ不十分です。国連の人権委員会に日本は約束したわけです。特に予算措置と人的なパワーの確保が不足していると思います。私は介護保険の問題に深く係わってきました。精神医療や精神障害者の問題が解決しなければ高齢者の問題も解決しないと、逆さまに考えています。

一番大変な方が一番いい処遇を受けていない限り、高齢者の処遇も良くはならないと思うのです。グループホームやショートステイ等が導入されたことはいい、だけど高齢者の介護保険で実施しようとしているホームヘルパーと同じだけのレベルで人が入れられるかというと、全然ケタが違う、予算のケタが違います。全国的な規模で展開することが難しいという意味で問題があると思います。

それから人的なサポートについてですが、この前長崎に行った時に大変不思議な村がありました。その村では30代から40代までの医療費の出費のトップが精神分裂病なんです。普通は脳血管障害とか心臓などが1位2位を占めるのですが、その村は精神分裂病なんです。

私はとても驚いて、一体どういうことかと聞きましたら、地域に精神医療の場が何もないため、隣の町、村、市へ行く、その費用は村から出ているということなのだそうです。

村単位で実際精神医療に係わるようになった場合、一万人以下の村はとてもじやないけれども対応しきれない。他の村より保健婦さんの数は多いけれどもなおかつ対応出来ていないのが現状で、どうすればいいのかと、しみじみ言われました。

村や市のレベルで現実的にきちんと対応していけるのかが問題で、私は厚生省が日本の隅々まで人材の養成施設や制度を確保できるのかどうか、非常に疑問を持っています。最後に働く職場の問題です。私は議員になってからずっとこの問題に関わってきました。

厚生省や労働省の課長を、精神障害の人の働いている現場に連れていったりしたのですが、この10年の間実際には雇用の継続あるいはそれに対する支援というのは実現してきませんでした。きちんとした継続した支援体制が作られない限り、地域での生活を充実していくことは難しいと思います。

いずれ厚生省と労働省が一緒になったときが体制作りのチャンスだと考えています。私の感想としてはこの10年で小規模作業所やボランティアという法律外の自発的な支援が拡大したのが特徴かと思います。私が番組を作っていた時、当事者の方にテレビに出て精神医療をどう変えて欲しいかを言って下さいとお願いしても、発言して頂けなかった。私はこうして欲しいんだということをおっしゃる方はいなかったんですね。

沖縄の当事者の方がその特集でおっしゃっていたことで、精神障害者となると病院の方にいってしまって、裁判にならないのはおかしいのではないかとの発言は、想像もつかなかったのですごく驚きました。

この国の対応があまりにも遅いという意味で、私自身は今、厚生省を責める立場にはなく、むしろ自分自身の責任だと思っています。

ジャーナリストの時には国の責任だ、厚生省の責任だと言えたのですが、残念ながら今は言えません。立法府が決めれば行政はそれを実行するわけですから、私たち立法府の中で、この問題を自分の問題として考える議員が10人ぐらいれば意識も変わると思います。

今は私が1人で10人分位やらなければと、5年後の見直しに向けては100人分位やるつもりでかからないと何も変わらないなと改めて感じています。立法府は政策を決める所なのですから、国の意思として決めていく必要があると思っています。