震災とジェンダー格差を考える
―災害支援・復興政策・防災に女性の視点を―
2012年4月20日
男女共同参画と災害・復興ネットワーク代表 堂本暁子


2011年3月11日、私は埼玉県嵐山町の国立女性教育会館(NWEC)で、全国から集まった女性リーダーを前に「女性のネットワークと男女共同参画」というテーマで講演をしていました。
14時46分。足元が大きくグラっと揺れ、私は思わず「あっ、地震だ、大きいですね、相当に大きい。どこが震源地でしょうか。長いわね」といって、急ぎ壇上を降りました。ところが、しばし地震が収まったのです。司会者に「講演を続けてください」と促され、講演を再開しました。ところがその途端、またさらに大きな揺れ。今度は司会者が「みなさん、机の下に潜ってください」と指示。さて私は、どうしたものかと一瞬迷ったのですが、壇上に机はないし「机の下でも声は聞こえますから、私は話を続けます」といって、予定時間の15時まで講演を続けました。終了後、控え室に戻ってテレビを見て驚きました。ちょうど津波が押し寄せてくる映像が目に飛び込んできたのです。まさかこんな大震災だとは思っていなかったので、気恥ずかしくなりましたが、すでにときは遅し。「地震・津波のときにでも講演を続けていた堂本さん」という武勇伝が、全国に伝わってしまいました。
以後、何日間かは、テレビにかじりつくようにして災害現場の報道を見続けました。あまりの悲惨な事態に心痛む日々でしたが、特に気になったのが避難所でうずくまっている高齢者や幼い子どもを連れた母親、苦しむ病人や障害者などの姿でした。
1995年の阪神淡路大震災の折も、2004年の新潟県中越大震災の時も、女性や高齢者の被害者が大勢でました。以来、災害時の対応や防災には男女共同参画の視点が必要だと言われ、2005年には防災基本計画が修正されて、「女性の参画・男女双方の視点」と明記されました。男女共同参画基本計画でも、2005年策定の第2次、そして2010年策定の第3次計画に、防災・環境における男女共同参画の推進が謳われました。
こうした項目は、どのように実行されていたでしょうか。千葉県の知事時代、私は全国知事会で2008年に「災害と女性」についての調査をおこなったところ、その結果は驚きでした。防災計画会議など意思決定の場に女性の参画が極端に少ないのです。しかも、避難所の備蓄品を選ぶのに女性が参加している都道府県は千葉県を含め、当時はゼロでした。
女性や高齢者等を対象とした防災力の強化は全く行われていなかったのです。妊産婦や乳幼児をもつ女性のための講習会や防災訓練を実施している自治体はわずか2.5%、障害者については7%でした。また避難所などにおける女性の活動環境も整っていませんでした。危機感を抱き、内閣府に調査結果をもって防災の分野に女性が参画することの重要性を訴えました。しかし、そうした知事会の調査結果を踏まえた改革は行われないまま、阪神淡路大震災、新潟県中越大震災のときと同じように、またもや被災地の女性たちは我慢を強いられ、困難な立場に置かれていたのです。
3.11から3週間ほどたった4月1日に、原ひろ子さんとWHJ(Women's Health Network Japan)「女性と健康ネットワーク」のメンバーと、福島県、宮城県の被災現地に入りました。
避難所を訪れて印象に残ったのは、男性が中心になって仕切っている、ということです。その仕切られ方は、男性の都合と感覚によるもので、例えば、リーダー役のある区長さんは「災害だけども、みんな一緒になったから親戚縁者も隣近所の人たちもみんな仲良くやっていますよ。だからダンボールを置くなど間に仕切りを置くなんていうことを私は許していません」と言うのです。女性たちに「あなたはどう感じているの」と聞くと、「食べるものはある。けれども、もう4キロ痩せました。辛いのは自分のスペース、自分の時間が全くないことです」と言いました。
私たちは、現場に男女共同参画の視点がないために、どれだけの女性たちが不便な生活に耐え、さらには暴力やセクハラに苦しんでいるのか、災害からもう3週間も経っているのにまだ何も解決されていないことを目の当たりにしました。
特に心配だったのが、子どもや高齢者、そして女性たちの健康、あるいは保健、衛生面の問題でした。女性たちは着替えをするのに困るという不便だけではなく、生理用のナプキンを貰いに行っても、配るのが男性であるなど、女性に対しての配慮が見られない避難所が多くあったようです。また、妊娠している人たちや、あるいは放射能の影響ということもあって、女性固有の健康問題で、これから女性たちが苦しむ可能性がありました。

「災害・復興と男女共同参画」6.11シンポ実行委員会の立ち上げ 
被災現場に行ってみると、平常時に女性が直面している不都合や差別といった社会の歪みが集約的に顕在化していることがわかりました。しかも、被災地の、特に女性や障害者、高齢者などの切実な要求や訴えの声は中央に届きにくい状況にありました。私たちはそのことに危機感を抱き、現状を報告し政府に改善を求めるために、災害から3か月目の6月11日に「災害・復興と男女共同参画」6.11シンポジウムを開くことにし、全国の団体や個人に呼びかけ、実行委員会を立ち上げました。
私たちの危機感を裏付けるように、4月11日に東日本大震災復興構想会議が発足すると、15人の委員のなかに女性は1人しか任命されていませんでした。
しかも、経済に軸足をおいた復興計画が男性を中心に進んでいました。「人間の安全保障」の実現を目指すのであれば、健康、福祉、環境、教育などの視点を踏まえた地域づくりを核として、復興計画の全体像を構想すべきです。その際、生活の場に身を置いている女性の果たす役割は限りなく大きく、男女共同参画の視点が必要不可欠だと、痛いほど感じずにはいられませんでした。
「災害・復興と男女共同参画」6.11シンポジウム実行委員会(以下実行委員会)の特徴は、各界各層のさまざまな分野の女性団体と個人が全国47都道府県から参画し、情報を共有し、さらに女性国会議員と連携して行動したことです。
日本学術会議や日本女性科学者の会、大学女性協会などの学会分野、全国地域婦人団体連絡協議会、女性会館協議会など女性の全国ネットワーク組織、国際婦人年連絡会や北京ジャックなどの政策提言団体、日本女医会、日本災害看護学会など医療・医学関係、国際、福祉、教育などさまざまな分野で活躍している数多くのNPO/NGOが名前を連ね、政府の政策が進展する度に総理大臣以下、関係閣僚、関係国会議員、政府関係者などに面会し、要望書を提出し続けました。
実行委員会のメリットはそれぞれの委員が専門性を発揮し、連携・協力したことで、共催の立場にあった日本学術会議の「人間の安全保障とジェンダー委員会」は理論構築、政策提言をつくる作業で終始「力」を発揮されました。女性団体連絡会は各都道府県、各市町村の女性センターや会館で「災害と男女共同参画」をテーマにシンポジウムやフォーラムを開催する努力を惜しみませんでした。
また、防災・復興分野の研究者からは歴史と災害をめぐる最近の国際的潮流について多くを学び、外国、特に欧米諸国では既に災害学の研究が進んでいることを知りました。阪神淡路大震災では、多くの女性が非正規雇用だったために解雇され、特に母子家庭の場合には生活再建は非常に難しかったとのことです。そこで当時、阪神の女性たちは復興のプロセスに女性の知識と能力を活用するよう、また女性に対する暴力防止の対策を確立するよう、政府に強く求め、報告書も出版しています。
こうした阪神淡路大震災、新潟中越沖地震以後の女性たちの経験に基づいた訴えを受けて国は、2005年に防災計画に「災害・復興に男女双方の視点・参加が重要」と書き込みました。問題は、国の方針として防災計画に明記されながら、なぜ東北の震災まで、何ら具体的な対策は取られずにきたかということです。「男女双方の参画」は「お題目」で終わっているのです。それ故に東北で、また同じ悲惨が繰り返されました。何としても現行の体制を改善しなければならない、というのが私たちの共通した思いであり、信念でした。
国際的な潮流としては、1990年に始まった「国連防災の10年」以後、「災害とジェンダー」は主流化しており、すでに1994年に横浜で開かれた「国連防災世界会議」、2005年に神戸で開かれた「第2回国連防災世界議会議」において、全ての防災政策や計画の作成、決定に女性が参画し、女性の視点を導入すること、が提唱されています。防災に対する国際的レベルと日本のレベルとの落差の大きさに唖然とせざるを得ませんでした。

政府と国会に対して要望活動を展開
「災害・復興と男女共同参画」6.11シンポ実行委員会の第二の特徴は、政府の復興政策の急速な進展と実行委員会の要望活動が連動して急速進んだことです。政府が発表する男女共同参画の書き込み方の曖昧さ、不正確さにその都度、私たちは触発され、より鋭く、具体的な要望をまとめては投げ返えしました。要望する側とされる側が相互に、ある種の相乗作用を起こしながら進んだといえます。4月11日に東日本大震災復興構想会議(以下復興構想会議)が設置され委員15人が発表されましたが、女性委員はわずか1人、誰しも驚きを禁じえませんでした。しかも、急ピッチで議論が進むので、男女共同参画の視点を盛り込むには、国会議員の協力が必要だと考え、5月9日に岡崎トミ子議員を始め衆参両院の女性議員を訪ね、とことん話し合いました。その結果、男女共同参画の視点を復興政策に反映させるには、国会の内外で情報を共有し、女性が相互に連携することの重要性を確認し合いました。

国会での質疑
早速、5月20日の参議院予算委員会で平山幸司議員(民主党)が「男女共同参画の視点が大事であるにも関わらず、復興構想会議に女性、一人しかいないのは何故か」と質問をし、それに対して菅総理は「男女共同参画の視点は重要であり、復興構想会議が男女共同参画の視点を重視するよう求める」と答弁しました。翌21日には参議院の内閣委員会で糸数慶子議員(無所属)が女性への暴力について、25日には衆議院内閣委員会で井戸まさえ議員(民主党)が質問するなど、災害と男女共同参画についての質疑が続きました。

5月10日 「女性」の記述ゼロの「復興7原則」
復興構想会議がスタートして1ヶ月目の5月10日に開かれた第4回会議は「復興7原則」を公表しますが、経済復興が基軸で、生活復興の視点が弱く、もちろん「女性」に触れることも、「男女共同参画」にも一切言及していませんでした。
阪神・淡路大震災の折に、女の人たちは「女性が参加する仕組みがないばかりか、むしろ、積極的に排除されているように感じた」と述べていますが、今回も同じように、私達が女性の問題を提起しても、無視というより「緊急事態の最中になんで男女共同参画なのか」とまるで別次元の問題を持ちだしてでもいるかのように、退ける気配が少なからずありました。

5月19日 国会議員と実行委員の緊急院内対話集会
5月19日に「男女共同参画の視点から問う災害の現状と今後の課題〜女性議員とともに考える〜」をテーマに女性団体と国会議員との緊急対話集会を参議院議員会館で開催しました。衆参両院の女性議員が13人、実行委員会からも50人以上が出席し、被災地の現状報告や地元議員の震災への取組などについて発言があり、議論が盛り上がりました。最後に「東日本大震災への対応における男女共同参画視点の徹底についての要望」案が出され、採択されました。
要望の内容は
1.意思決定の場への女性の参画、
2.東日本大震災復興構想会議に男女共同参画の視点を持った委員、とりわけ女性の委員を増員すること、
3.復興計画に関しては、女性や高齢者、障害者など被災当事者が主体となってつくる仕組みつくること、の3点です。
集会の終わり近くに内閣府の末松義規副大臣と男女共同参画を担当する林久美子文部科学政務官も駆けつけ、われわれの要望書を担当大臣に届けることを確約し、熱のこもった集会は終わりました。

5月29日 「5つの論点」に初めて「男女共同参画社会の重要性」が登場
5月29日に復興構想会議が出した「これまでの審議過程において出された主な意見〜『復興7原則』と『5つの論点』〜」を出しますが、今度は、わずか一箇所ですが、<復興事業の担い手や合意形成プロセス>の項に「地域づくりにおいては、女性や高齢者、障害者など多様な人々が合意形成プロセスに積極的に参画することにより、生涯現役社会や男女共同参画社会といった真の参画型社会の形成を目指すことが重要である」と書き込まれました。
「地域づくり」に限定した書き方で、ものたりなさを感じないわてではありませんでしたが、とにかく「女性」、そして「男女共同参画社会の重要性」が書きこまれたのは、この間の要望活動の成果であり、まずこれが最初の一歩なのだと受け止めました。
そのわずか2週間後に復興構想会議の御厨議長代理が「復興への提言」骨子を発表しますが、今度は「本論 2くらしと仕事の再生」の「地域包括ケア」のところで「保健・医療、介護・福祉分野を復興期における地域の基幹産業の一つに位置づけ、若者・女性等の雇用を確保」と記述されました。しかし、今度は労働分野に限定されています。「男女共同参画社会が重要」であると明記した「5つの論点」はどこへいってしまったのでしょう。これでは後退です。防災分野における男女共同参画の概念が確立していないのみならず、重要な柱として位置づけていないのでその都度、視点が変わっています。

東日本大震災復興基本法に「女性の意見を反映」と記述
国会での法案審議は大詰めを迎え、6.11シンポ直前の6月9日に衆議院の震災復興特別委員会で民主、自民、公明3党の理事が、法案修正で合意し、20日に参議院本会議で東日本大震災復興基本法が可決成立しました。その第2条(基本理念)には「被災住民の意向が尊重され、あわせて女性、子ども、障害者等を含めた多様な国民の意見が反映されるべきこと」とされました。この書き込み方は、災害・復興における「男女共同参画の視点の徹底」を要望してきた私たちにとってはいささか物足りないものでしたが、この条文は法的根拠として今後の展開に力を発揮するのは間違いなく、女性関連の条文が入ったことで実行委員会としては初期の目標は一応達成できた、といえます。実行委員会のMLにも、復興基本法に「女性」が入ったことを喜ぶメールが次々と寄せられました。
ここまでが、要望活動の第一段階であり、次にくる第2段階では、一歩進んで、理念として書き込まれた「男女共同参画」をどう政策、施策として個別具体的に実現させるか、が課題となりました。そうした時期に、私たちは最高のタイミングで「6.11シンポ」の日を迎えました。

6月11日 盛況だった「災害・復興と男女共同参画」6.11シンポ
6.11シンポ当日、会場の日本学術会議講堂は各地から集まった参加者で満席となり、熱気に包まれていました。東北で被災した当事者からは、実際に直面している様々な問題が報告され、また災害、医療、経済などそれぞれの分野の専門家による分析があり、阪神淡路や中越地震の経験も語られ、密度の高い議論が展開されました。復興に向けてのまちづくり、健康の問題、就業、子育てと、まさに第2段階で政策提言すべき個別具体的な課題が数多く提起され、それを参加者一同で共有できたのは有意義でした。最後に要望書を取りまとめ、政府に提出することを決め、閉会しました。

「6.11シンポ」までの第1段階は、「男女共同参画の視点」を「復興基本法」や「提言」等に盛り込む要望活動に終始しました。2か月の間に、十分とは云えませんが、それぞれの法律や政策文書に「女性」や「男女共同参画の視点」が理念として書き込まれました。
「6.11シンポ」以後の第2段階は、個別具体的な政策として復興基本方針に明記し、それを実行に移させるための活動に転換しなければなれませんでした。つまり第2段階の活動は第1段階の成果と「6.11シンポ」をテコに展開していきます。

6月14日 「6.11シンポ」以後の急激な動き
6.11シンポの3日後の6月14日に参議院の東日本大震災特別委員会で、岡崎トミ子議員が質問に立ち、「6.11シンポ」を紹介しながら、復興構想会議に女性委員を増やすよう、菅総理に質しました。
岡崎トミ子 六月十一日、先週の土曜日に、日本学術会館で復旧復興の全ての段階に男女共同参画が重要だというテーマでシンポジウムが開催されまして、被災地の女性を始め全国の女性団体の代表や専門家が出席をいたしました。このシンポジウムの実行委員会には全国四十七都道府県の女性団体が参加しておりまして、当日も全国から参加の申込みが殺到して大変な熱気だというふうに聞いております。この実行委員会から、創造的な復興には男女共同参画の視点が不可欠だということで要望が提出されております。女性の参画を求める声が全国的なうねりとなって押し寄せてきているということを感じます。(中略)
復興構想会議のメンバーに、二十五人以内とされておりますメンバー、現在十五人で一人だけお入りになっていますけれども、この基本法の位置付けに、メンバーを増やす際には、ふさわしい知見を持った女性を複数名入れていただきたい。復旧復興のプレゼンス、そのプロセスの中に男女共同参画の重要性についてどのように感じておられるのか、総理にお伺いしたいと思います。
内閣総理大臣(菅直人)この復興には女性の視点というものが重要であるという御指摘はそのとおりだと思っております。当初のメンバーの中に女性の方が結果として少なくなっているということについては大変申し訳なく思っております。今後、これが法律による正式な形の復興構想会議という形になり、また今お話がありましたように、二十五名以内というメンバーの中で、これからの運営を含めて女性の方にもっと入ってもらえるように現在の責任者でもあります五百旗頭議長と是非お話をして、そういう方向で進めてまいりたいと、こう考えております。
以上が菅総理の答弁でした。女性議員の度重なる国会質問で、徐々にではありますが、災害時における女性の問題、男女共同参画の視点の重要性について議論する土壌が醸成されてきました。

復興構想会議「提言」に「男女共同参画の視点」明記、反面で「減災」概念は狭い
6月25日に、東日本大震災復興構想会議の提言として「復興への提言〜悲惨のなかの希望〜」が発表されました。「誰をも排除しない包摂型の社会づくり」を提唱し、これまで、「声を上げにくかった女性などが、震災を契機に地域づくりに主体的に参加することが重要である。とりわけ、男女共同参画の視点は忘れてはならない」と記述されました。
また、「まちづくり」について、「住民意見の集約にあたっては、女性、子ども、高齢者、障害者、外国人等の意見についても、これを適切に反映させ」るとし、さらに、「地域包括ケアを中心とする保健・医療、介護・福祉の体制整備」では、「若者・女性・高齢者・障害者を含む雇用を被災地において確保し」と記載されています。
5月10日の復興7原則には、男女共同参画の視点はもちろん、女性への配慮も読み取ることはできませんでした。これにたいして、6月25日の「提言」に、「男女共同参画の視点は忘れてはならない」と入ったことは評価できます。しかし、それらは明らかに、男女共同参画を主流化した書き込み方とはいえません。
そもそも、阪神淡路大震災、新潟・中越地震以来、女性たちは声を上げ続けており、「これまで声を上げにくかった女性など」という表現には、違和感を抱きます。また「女性、子ども、高齢者、障害者」という書き方は、「災害弱者」としての括り方で、あくまでも政策の対象としての位置づけであり、政策を立案する主体として女性を位置づけていません。女性を一人の主権者として、大人として扱っているとは思えませんでした。

7月28日 要望が反映された「東日本大震災からの復興の基本方針」
28日に「東日本大震災からの復興の基本方針」が決定しました。実に12か所に男女共同参画に関する内容が書き込まれていたのです。正直なところ、「遂に」との思いでした。
その内容は以下のとおりです。

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東日本大震災からの復興の基本方針
(男女共同参画関係部分抜粋)
平成23年7月29日
東日本大震災復興対策本部

1 基本的考え方
(ⅸ)男女共同参画の観点から、復興のあらゆる場・組織に、女性の参画を促進する。
あわせて、子ども・障害者等あらゆる人々が住みやすい共生社会を実現する。

5 復興施策
(1)災害に強い地域づくり
①高齢化や人口減少等に対応した新しい地域づくり
(ⅱ)高齢者や子ども、女性、障害者などに配慮したコンパクトで公共交通を活用したまちづくりを進める。
⑤市町村の計画策定に対する人的支援、復興事業の担い手等
(ⅱ)被災地に居住しながら、被災者の見守りやケア、集落での地域おこし活動に幅広く従事する復興支援員の
配置等及びまちづくり等に関する各種専門職の被災地への派遣や人材の確保・データベース化を進める。各
種専門家の派遣やデータベース化等に当たっては、女性の参画に配慮するとともに、被災した地方自治体か
ら見て、ワンストップの対応が可能となるようにする。
(ⅳ)まちづくりにおいて、協議会等の構成が適正に行われるなど、女性、子ども・若者、高齢者、障害者、外
国人等の意見が反映しやすい環境整備に努める。

(2)地域における暮らしの再生
①地域の支え合い
(ⅰ)少子高齢化社会のモデルとして、新しい形の地域の支え合いを基盤に、いつまでも安心してコミュニティ
で暮らしていけるよう保健・医療、介護・福祉、住まい等のサービスを一体的、継続的に提供する「地域包
括ケア」の体制を整備するため、地域の利便性や防災性を考慮しつつ、被災地のニーズを踏まえ基盤整備を
支援する。その際には、高齢者、子ども、女性、障害者等に配慮し、地域全体のまちづくりを進める中で、
被災市町村の特性を踏まえ、安全な場所に集約化を進める。
(ⅳ)被災地や避難先における、不安や偏見等に基づく多様な人権問題に対し適切に対処するとともに、その発
生を防止する取組みを行い、被災者の孤立を防止する。このほか女性の悩み相談を実施する。
②雇用対策
(ⅱ)被災地域における人口減少・少子高齢化に対応するため、第一次産業等の生涯現役で年齢にかかわりなく
働き続けられる雇用や就労のシステムを活用した全員参加型・世代継承型の先導的な雇用復興、兼業による
安定的な就労を通じた所得機会の確保等を支援する。若者・女性・高齢者・障害者を含む雇用機会を被災地
域で確保する。
(ⅲ)女性の起業活動等の取組みを支援するため、被災地におけるコミュニティビジネスの立ち上げの支援、農
山漁村女性に対する食品加工や都市と農山漁村の交流ビジネス等の起業化の相談活動、経営ノウハウ習得の
ための研修等の取組みを支援する。

(3)地域経済活動の再生
③農業
(ⅲ)戦略を組み合わせることで、地域の特性に応じた将来像を描き、力強い農業構造の実現を支援していく。
(ハ)農業経営の多角化戦略
農業生産だけでなく、復興ツーリズムの推進や再生可能エネルギーの導入、福祉との連携といった様々
な取組みを組み合わせ、これに高齢者や女性等も参画することにより、地域の所得と雇用を創出していく。

7 復興支援の体制等
(1)復興対策本部・現地対策本部の役割
(ⅲ)「東日本大震災復興対策本部」及び「現地対策本部」の事務局に、復興過程における男女共同参画を推進
する体制を設けるものとする。

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8月2日 遅かった菅総理との面談
8月2日、菅直人総理大臣との面談が実現しまし、以下の2点を新たに要望しました。
1 男女共同参画関連政策の実施に人材を確保し、必要な予算を投入すること。
2 男女共同参画担当部署を設け、領域横断的な企画調整権限を持たせること。
総理に面談を申し込んでから実に3か月目のことでした。
菅総理は「日本では男女共同参画は遅れている。そういう点で、災害時に男女共同参画の重要性を盛り込むよう求めているみなさんの提案を、できるだけ政府としても積極的に受け止める。そのために私自身も動きたいと思っています」と述べました。
菅総理との面談は予定の15分で終わらず、30分に及び、参加したメンバー全員と握手をし、話を聴くといったサービスぶりでした。総理との面談の数日後に男女共同参画の担当参事官が任命された、と聞き、基本方針が推進され始めた模様でした。

外圧ではなく、国内の女性がつくる災害対策
残念ながら、これまでの日本の女性政策、男女共同参画関連の制度はほとんどが国連の動きを受けて実現してきました。1975年のメキシコで第1回世界女性会議が開かれ、それを受けて、婦人問題企画推進本部が設置され、1979年には女子差別撤廃条約を採択し、雇用機会均等法ができました。大きかったのは1995年に北京で開催された第4回世界女性会議で、4年後の1999年に男女共同参画社会基本法が成立しました。常に外圧で進んできました。そのためか、ジェンダー視点からの社会変革は起こらず、政治、経済の主導権は相変わらず男性が主流を占め、ジェンダー・エンパワーメント指数(GEM)は109か国中第57位(年代)という低さです。
今回の「災害・復興と男女共同参画」の活動は外圧ではありません。東日本大震災をきっかけに、やむにやまれない気持ちで駈け出し、作業チームは無我夢中で走りました。東北で被災した女性が経験していることは、全国共通の問題であり、東日本大震災の復興基本法に取り組むことは、日本の災害政策や制度の改革に取り組むことに他なりません。
3.11に地震と津波、放射能問題が起き、平時のジェンダー・バランスの悪さ、そのために起きている社会の歪が、一気に顕在化しました。つまり、災害に強い国をつくるには、ジェンダー・バランスのとれた、男女共同参画の視点からの社会改革が必要であることを私たちは東日本大震災から学びました。
2012年2月10日、復興庁が発足し、私達が求めた男女共同参画担当の部署が設置されました。4月には、5人の女性専門職員が採用され、いささか遅いのですが、やっと軌道に乗り始めています。私たちの次の役割は復興基本法,復興基本方針に記述された内容を確実に実施させていくこと、そして防災会議に女性委員を増やすために災害対策基本法の改正を実現することです。特に今後は、中央だけでなく、各都道府県、市町村で要望活動を展開し、男女共同参画を徹底的に災害政策に取り込ませることです。地方での動きと中央の活動を連動させ、あるいは地方相互に連携し、情報を共有しながら「災害・復興と男女共同参画」の活動のうねりを強化し、全国に広げるときです。

国連での意外な展開
2012年2月、ニューヨークでは、国連日本政府代表部の公使が、日本学術会議のウェブサイトに掲載された、611シンポジウムの当日資料を読み、第56回国連婦人の地位委員会(CSW)に決議案「自然災害とジェンダー(Gender Equality and the Empowerment of Women in Natural Disasters)」を提出し、満場一致で採択されました。CSWに、日本が決議案を提出したのは、これが初めてのことです。まったく意外な展開でした。
また、2月28日にはAPWW主催のワークショップ「Gender and Disaster in Asia and Pacific」、3月1日には国連NGO国内婦人委員会、国際婦人年連絡会、JAWWが主催でサイドイベント「災害・復興と男女共同参画―東日本大震災と津波」が開催されるなど、この運動を担った面々が中心となって、多彩なイベントが行われ、いずれも定員をオーバーする参加者がありました。特に、3月1日のサイドイベントでは、内閣府男女共同参画局長が出席し挨拶するなど、国内での官民協力体制がニューヨークでも継続されました。同時に、日本政府・NGOとして、3.11災害に際して多くの国々や団体・個人から国際的支援を頂いたことへのお礼を伝える機会ともなりました。

中川正春防災・男女共同参画担当大臣への要望と国会答弁
ニューヨークの決議を受けて、3月21日、中川防災・男女共同参画大臣に新たに以下の要望書を提出しました(参考資料)。翌22日、参議院議員内閣委員会において、民主党岡崎トミ子議員の質問に対し、中川大臣は「法律(災害対策基本法)も改正をしていくということを前提にして、女性が参画をしていただけるような枠組みをつくっていきたい」と答弁しました。災害と男女共同参画に関する政策立案を求める国内での活動が、国連で決議として結実し、そのことによって国内政策を後押しするという好循環が実現しました。

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「災害・復興と男女共同参画」6.11シンポジウム実行委員会は、シンポジウムの報告書作成をもって、10月末日で解散しました。実行委員会の活動によって復興基本法、復興基本方針に盛り込まれた政策が具体的にどのように実現されるのか監視し、促進を図っていくため、11月1日から男女共同参画と災害・復興ネットワークとして活動を継続しています。ご関心のある方は、saigai.gender@gmail.com までご連絡ください。
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