東日本大震災から6年 この間のロビー活動を振り返って
2017年3月1日
男女共同参画と災害・復興ネットワーク代表 堂本暁子


2011年3月11日に東日本大震災が起きてから6年になる。この間、男女共同参画と災害・復興ネットワークは、防災、そして復興政策に男女共同参画と多様性の視点を取り込むよう政府に要望する活動を続けてきた。いわゆるロビー活動である。その成果と今後の課題について考察する。

ネットワークの結成とロビー活動の展開

最初に福島県、宮城県の被災地の避難所を訪れたのは、3.11から三週間ほどたった四月一日。まず驚いたのは、間仕切りがなく、プライバシーが守られていないことだった。リーダー役の男性区長に聞くと、「いやあ、俺の目の黒いあいだは間仕切りなんか絶対作らせない。俺は全部を見渡したい」という。男性の都合と感覚がまかり通っていた。
私たちは、女性たちが不便な生活に耐え、さらには暴力やセクハラに苦しんでいる状況を目の当たりにした。女性をはじめ、高齢者や障害者、子どもや外国人など多様な立場の被災者の意見やニーズが避難所運営に反映されていなかったのである。
そこで私たちは、全国の女性団体や個人に呼びかけ、3ヶ月後の6月11日にシンポジューム「災害・復興と男女共同参画」を開催し、ネットワークを結成。直ちに意思決定の場への女性の参画、復興計画に女性や高齢者など被災当事者が主体的に参画できる仕組みの構築などを女性国会議員及び政府に要望した。

東日本大震災復興構想会議が、五月に「復興構想七原則」を公表したが、内容は経済復興、インフラ復興のみで、生活復興については全く触れられていない。そこでネットワークは男女共同参画・多様性の視点を盛り込むよう、要望を繰り返した。
その結果、提案書である「五つの論点」に「地域づくりにおいては、女性や高齢者、障害者など多様な人々が合意形成プロセスに積極的に参画することにより、生涯現役社会や男女共同参画社会と言った真に参加型社会を目指すことが重要である」と書き込まれた。

一方、東日本大震災復興基本法の基本理念には「被災地の住民の意向が尊重され、あわせて女性、子ども、障害者等を含めた多様な国民の意見が反映されるべきこと」と明記された。
さらに復興基本方針には「基本的考え方」として「男女共同参画の観点から、復興のあらゆる場・組織に、女性の参画を促進する」など、12の項目に男女共同参画の視点が盛り込まれ、一定の成果を上げることが出来た。

問題は、国、都道府県、市町村とあらゆるレベルで防災会議にほとんど女性が参加していないことだった。そこで、災害対策基本法の改正を訴えたところ、知事や市町村長の判断により女性を委員に指名しやすい制度への改正が実現し、2011年以前は4.1%だった都道府県の女性委員が2016年4月現在14%に増えた。現在、最も女性の割合が高いのは徳島県で委員総数79人中女性が39人で49.4%、2位は鳥取県の43.3%である。

また、防災基本計画も、2011年の改正で「避難所の運営における女性の参画を推進するとともに、男女のニーズの違い等男女双方の視点等に配慮するものとする。特に、女性専用の物干し場、更衣室、授乳室の設置や生理用品・女性用下着の女性による配布、避難所における安全性の確保など、女性や子育て家庭のニーズに配慮した避難所の運営に努めるものとする。」と被災地での問題事例が列挙された。
さらに2012年には女性国会議員の努力で「被災地の復旧・復興に当たっては、男女共同参画の観点から、復旧・復興のあらゆる場・組織に女性の参画を促進するものとする」との書き込みに成功した。
民主党政権下では事前に法律の骨子が示されるなど情報が開示されたので、的確な要望を提示することが可能であった。しかし、ロビー活動には、政府や地方自治体が市民の意見等を積極的に受け止め、協議する姿勢がないと実現することは難しく、要望書を提出するだけでは多くを期待することができないことを実感している。

最も本質的な内容が盛られたのは、内閣府の男女共同参画局が策定した取組指針である。
1)平常時からの男女共同参画の推進が防災・復興の基盤となる
2)「主体的な担い手」として女性を位置づける
3)男女共同参画センターや男女共同参画担当部局の役割を位置づける、
などがその主な内容である。

以上、列記してくると、ネットワークの要望した事項が法律や計画、取組指針などに書き込まれた数は決して少なくない。また国の改正を受けて地方自治体の防災計画に男女共同参画の重要性が記述されたのは画期的なことであり、評価に値する。しかし、問題はそれが地域社会に浸透し、実践されているか、否か、である。

2016年4月14日に熊本地震が起きた。その時、熊本市の男女共同参画センターは全くジェンダー視点を踏まえた準備をしていなかったという。しかし、発災と同時に「取組指針」を参照し、チェックリストを使って避難所を廻り対応した。東日本大震災以後に出来た「取組指針」が功を奏した。

熊本だけではない。防災計画に男女共同参画を謳っていても、女性が参画する体制を整え、地域での話し合いや訓練を実施している自治体は意外に少ないのである。災害に強い地域社会を実現するには女性も、高齢者も、障害者も、全ての住民が災害多発時代に生きていることを自覚し、防災活動に参画することが必要不可欠であるとの認識が、行政にも、地域の住民にも薄いのである。

第3回国連防災世界会議と仙台防災枠組

2015年に第3回国連防災世界会議 が仙台市で開かれることが決まり、私達の活動は国内から世界へと急展開する。2014年にバンコクで開かれたアジア防災閣僚会議や世界会議の準備会合(ジュネーブ)に参加するなど、各国の女性主要メンバーと連携して活動を展開した。日本からの主張は、新しい枠組にジェンダーを主流化させること、特に意思決定機関に30%以上の女性を参画させること、生涯にわたる女性の健康と権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)を保障すること、女性の力を認め、リーダーとして活躍できるよう支援すること、などであった。

第3回国連防災世界会議が採択した「仙台防災枠組」は、人間中心の予防的アプローチを明記し、防災、復興に関する政策や計画の策定に全てのステークホルーダー(関係者)の積極的な関与、女性の参画とそのための能力開発を求めた。私たち女性主要グループの主張は大幅に取り込まれ、女性主要グループは大きな成果を上げた。

私たちの次の目標は、「仙台防災枠組」を国内法に反映させることだったが、主催国であるにも関わらず、政府はジェンダー視点の徹底、関係者(ステークホルダー)の意志決定の場への参画などを災害関連の法律に積極的に取り込む姿勢は示さなかった。
災害対策基本法の基本理念に男女共同参画が明記されることはなく、2016年に防災基本計画に「地域における生活者の多様な視点を反映した防災対策の実施により地域の防災力向上を図るため、地方防災会議の委員への任命など、防災に関する政策・方針決定過程及び防災の現場における女性や、障害者などの参画を拡大し、 …」と書き込まれたのみである。

津波の日記念シンポ━━生活復興とインフラ復興━━

2016年10月に世界津波の日記念国際シンポジウム「ジェンダー・多様性の視点からの復興をめざして」を開催した。男女共同参画、福祉、環境などのソフト分野と都市計画、堤防建設、復興住宅などのハード分野の両方をテーマにした新しい試みのシンポジュウムである。
6年の歳月を経て、東日本大震災の復興現場を見ると、生活者の希望やニーズが必ずしも住宅やまちづくりに反映されていなかった。災害の発災直後は、住宅を失った被災者は一刻でも早く復興住宅の建設を求め、政府は計画と予算の早期提出を被災自治体に求めた。そのため、被災自治体として基本理念を確立し、住民参加による将来ビジョンを構築する余裕がなかった、と地元の市長や行政の担当者はいう。
しかし、政府、地方自治体、事業者に求められているのは説明責任であり、住民の意見を反映した合意の形成である。また、地域住民の一人ひとりも公共の担い手としての自覚をもち、行政任せ、人任せにすることなく、主体的に復興のプロセスに参画すべきであった。
私たちのロビー活動を振り返って見ても、まちづくりや復興住宅などについて、ジェンダー・多様性の視点から検証し、改善を求めることをしてこなかった。反省点である。
災害が起きてからでは遅い。平常時から住民は公共事業などについても、行政や事業者に任せるのではなく、地域の生活当事者の立場から意見を述べる環境を構築しておくべきであろう。

ロビー活動力の強化と社会改革

6年を振り返って2点指摘したい。
第1は、災害のリスクを削減するには男女共同参画社会の実現が不可欠なことである。阪神淡路大震災、新潟中越地震、東日本大震災の経験から、私たちは男女共同参画の視点が欠如している社会は脆弱であり、災害に弱いことを学んだ。南海トラフ、或いは首都直下型地震の可能性が語られる現在、この点は我が国にとっての喫緊の課題である。
第2はロビー活動力の強化である。ネットワークは要望活動を継続しているが男女共同参画を全国に浸透させるところまで力を発揮することができなかった。災害多発時代に求められているのは、防災政策をはじめ、自治体のあらゆる政策づくりに、地域の住民が政策を提言し、決定のプロセスに参加することである。住民は行政が提示する政策を分析し、批判力を含む、市民、住民の多様な意見を整理し、ロビー活動を強化することによって、真にレジリエントな地域社会の実現を自らの手で実現すべきである。
ロビー活動は多くの市民の思いや意志を代弁するものであり、一部の活動団体やNPOによるものであってはならない。私たちは、この6年間の経験を活かし、被災地の人々、そして全国の仲間たちの意見を集約しながら活動を継続することによって社会の変革につなげていきたい。それは、男女共同参画社会の実現に他ならない。