東日本大震災から6年 この間のロビー活動を振り返って |
2017年3月1日 |
男女共同参画と災害・復興ネットワーク代表 堂本暁子 |
ネットワークの結成とロビー活動の展開 最初に福島県、宮城県の被災地の避難所を訪れたのは、3.11から三週間ほどたった四月一日。まず驚いたのは、間仕切りがなく、プライバシーが守られていないことだった。リーダー役の男性区長に聞くと、「いやあ、俺の目の黒いあいだは間仕切りなんか絶対作らせない。俺は全部を見渡したい」という。男性の都合と感覚がまかり通っていた。 東日本大震災復興構想会議が、五月に「復興構想七原則」を公表したが、内容は経済復興、インフラ復興のみで、生活復興については全く触れられていない。そこでネットワークは男女共同参画・多様性の視点を盛り込むよう、要望を繰り返した。 一方、東日本大震災復興基本法の基本理念には「被災地の住民の意向が尊重され、あわせて女性、子ども、障害者等を含めた多様な国民の意見が反映されるべきこと」と明記された。 問題は、国、都道府県、市町村とあらゆるレベルで防災会議にほとんど女性が参加していないことだった。そこで、災害対策基本法の改正を訴えたところ、知事や市町村長の判断により女性を委員に指名しやすい制度への改正が実現し、2011年以前は4.1%だった都道府県の女性委員が2016年4月現在14%に増えた。現在、最も女性の割合が高いのは徳島県で委員総数79人中女性が39人で49.4%、2位は鳥取県の43.3%である。 また、防災基本計画も、2011年の改正で「避難所の運営における女性の参画を推進するとともに、男女のニーズの違い等男女双方の視点等に配慮するものとする。特に、女性専用の物干し場、更衣室、授乳室の設置や生理用品・女性用下着の女性による配布、避難所における安全性の確保など、女性や子育て家庭のニーズに配慮した避難所の運営に努めるものとする。」と被災地での問題事例が列挙された。 最も本質的な内容が盛られたのは、内閣府の男女共同参画局が策定した取組指針である。 以上、列記してくると、ネットワークの要望した事項が法律や計画、取組指針などに書き込まれた数は決して少なくない。また国の改正を受けて地方自治体の防災計画に男女共同参画の重要性が記述されたのは画期的なことであり、評価に値する。しかし、問題はそれが地域社会に浸透し、実践されているか、否か、である。 2016年4月14日に熊本地震が起きた。その時、熊本市の男女共同参画センターは全くジェンダー視点を踏まえた準備をしていなかったという。しかし、発災と同時に「取組指針」を参照し、チェックリストを使って避難所を廻り対応した。東日本大震災以後に出来た「取組指針」が功を奏した。 熊本だけではない。防災計画に男女共同参画を謳っていても、女性が参画する体制を整え、地域での話し合いや訓練を実施している自治体は意外に少ないのである。災害に強い地域社会を実現するには女性も、高齢者も、障害者も、全ての住民が災害多発時代に生きていることを自覚し、防災活動に参画することが必要不可欠であるとの認識が、行政にも、地域の住民にも薄いのである。 第3回国連防災世界会議と仙台防災枠組 2015年に第3回国連防災世界会議 が仙台市で開かれることが決まり、私達の活動は国内から世界へと急展開する。2014年にバンコクで開かれたアジア防災閣僚会議や世界会議の準備会合(ジュネーブ)に参加するなど、各国の女性主要メンバーと連携して活動を展開した。日本からの主張は、新しい枠組にジェンダーを主流化させること、特に意思決定機関に30%以上の女性を参画させること、生涯にわたる女性の健康と権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)を保障すること、女性の力を認め、リーダーとして活躍できるよう支援すること、などであった。 第3回国連防災世界会議が採択した「仙台防災枠組」は、人間中心の予防的アプローチを明記し、防災、復興に関する政策や計画の策定に全てのステークホルーダー(関係者)の積極的な関与、女性の参画とそのための能力開発を求めた。私たち女性主要グループの主張は大幅に取り込まれ、女性主要グループは大きな成果を上げた。 私たちの次の目標は、「仙台防災枠組」を国内法に反映させることだったが、主催国であるにも関わらず、政府はジェンダー視点の徹底、関係者(ステークホルダー)の意志決定の場への参画などを災害関連の法律に積極的に取り込む姿勢は示さなかった。 津波の日記念シンポ━━生活復興とインフラ復興━━ 2016年10月に世界津波の日記念国際シンポジウム「ジェンダー・多様性の視点からの復興をめざして」を開催した。男女共同参画、福祉、環境などのソフト分野と都市計画、堤防建設、復興住宅などのハード分野の両方をテーマにした新しい試みのシンポジュウムである。 ロビー活動力の強化と社会改革 6年を振り返って2点指摘したい。 |